中小企業のDXの進め方|最初に直すのは、打ち直しのある仕事の受け渡し
「中小企業 DX 進め方」で調べると、国の手引きも、検索の上位に並ぶ記事も、最初の一歩に「経営ビジョンを決める」「目的をはっきりさせる」を置いています。順番としては正しいのですが、今月の請求書に追われている社長にとって、5年後の会社の姿から書き始めるのは重い一歩です。
ビジョンを書き上げる前でも、社長が決められることが1つあります。最初に直す「仕事の受け渡し」です。紙1枚と、事務の方への質問1つで決まります。
中小企業のDXは、最初に直す受け渡しを1つ選ぶところから進める
中小企業のDXの進め方で、社長が最初に決めるのは、どのソフトを入れるかでも、全社の計画でもありません。最初に直す仕事の受け渡しを1つ選ぶことです。受け渡しとは、見積から受注へ、現場から報告へ、というように、仕事が一人の手から次の人の手へ移る場所を指します。社長は、見積から入金までの受け渡しを6つ書き出し、入金に近いほうから、同じ数字を打ち直している受け渡しを1つ選びます。社長がソフトを選ぶのは、その1つが決まってからです。
私が受け渡しから見るのは、数字の打ち直しや「あの件、どうなってる?」という確かめの電話が、人から人へ仕事が渡るところで起きやすいからです。一人で片づく作業の中の手間なら、担当者が自分で工夫して減らしていることもあります。渡す側と受け取る側に分かれた手間は、どちらか一人の工夫では消えにくく、同じ形で残りやすくなります。
国の手引きは、4つの段で進め方を示している
経済産業省の「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」(2025年3月)は、DXの進め方を4つの段で示しています。
| 段 | 手引きの見出し | 主な中身(手引きの言葉の要約) |
|---|---|---|
| 1 | 意思決定 | 経営ビジョン・戦略を決め、進める体制を整える |
| 2 | 全体構想・意識改革 | 全社を巻き込む準備として、紙などの記録をデータに置き換え、推進の担当と現場とで成功例を作る |
| 3 | 本格推進 | 仕事の手順を見直し、社内のデータを分析して使う |
| 4 | DX拡大・実現 | お客さまとの接点や取引先まで変え、新しい価値を届ける |
同じ手引きは、成功のポイントの3つ目に「まずは身近なところから始め、成功体験を重ねる」を挙げ、紙の台帳を電子のデータへ切り替える例を載せています。手引きの図では、このポイントは2段目から先に置かれ、1段目のビジョンから逆算して進めることが求められています。
私が手引きの「DXの進め方」と「成功のポイント」の章を読んだ範囲では、その「身近なところ」を、会社の仕事のどこから選ぶかの手順までは書いていませんでした。この記事が受け持つのは、そこです。私は、1段目のビジョンを書き上げるのを待たずに、受け渡しを1つ直し始めてよいと考えています。直した受け渡しで社長が分かったことは、1段目を考える材料にもなります。
見積から入金までの受け渡しを6つ書き出す
社長が紙に書き出す受け渡しは、次の6つです。私が無料のご相談で、最初に全体を伺うときにも、この6つを使っています。
| 受け渡し | 渡すものの例 |
|---|---|
| 問い合わせ → 見積 | 電話で聞いた要望のメモ、現調の写真 |
| 見積 → 受注 | 見積書、注文書、変更の連絡 |
| 受注 → 現場 | 作業の日程、段取り、図面 |
| 現場 → 報告 | 点検票、写真台帳、出面 |
| 報告 → 請求 | 報告書の数量、追加の作業 |
| 請求 → 入金確認 | 請求額、締め、入金の予定日 |
最初の1つは、入金に近いほうから、打ち直しのある受け渡しを選ぶ
最初の1つは、社長が選びます。どこで数字を打ち直しているかは事務の方のほうが詳しいので、社長は選ぶ前に事務の方に聞きます。選ぶ決まりは、次の2つを重ねたものです。
入金に近いほうから見る。 表の下の段ほど、止まったときにお金の入り方へ響きます。報告から請求への受け渡しで追加の作業が抜ければ、事務の方はその作業を請求書に載せないまま送ります。請求から入金確認への受け渡しで照らし合わせが遅れれば、社長が入金の遅れに気づく日も遅れます。下の段から直すと、社長は直ったかどうかを、請求書と通帳で確かめられます。
同じ数字を打ち直している受け渡しを選ぶ。 現場の点検票に書いた数量を、事務の方がExcelの請求書へもう一度打っている。こうした打ち直しなら、社長は、誰が月に何回打っているかを数えておけます。直したあとにもう一度数えれば、打ち直しが減ったかどうかが社長の手元に残ります。
社長は、下の段から順に見て、打ち直しのある受け渡しに当たったら、そこで止めて、その1つを選びます。残りの受け渡しは、この時点ではまだ選びません。
ソフトは、選んだ受け渡しを直す段で決める
お見積りの前には、選んだ受け渡しのどこからどこまでを直すか、誰が使うか、何を確かめられたら直ったとするか、何を対象から外すかを、私が社長と決めて書面にします。有料のご支援で私が最初にするのは、その受け渡しを通った案件を1件選び、受注から入金まで、書類が誰の手を通ったかをたどることです。
使う道具は、そのあとで社長と決めます。いまお使いのExcelやソフトのままで足りることもあります。請求から入金確認への受け渡しを、すでにお使いのkintoneで直す場合の組み方は、kintoneで請求漏れ・入金遅れを防ぐに書きました。
受け渡しから始める進め方が合わない会社もある
受け渡しを1つずつ直す進め方が合わないのは、次の2つの会社です。
- 新しい商売を始めることが目当ての会社。 たとえば、社長がこれまで扱っていなかった商品をネットで売り始めたい場合、今の受け渡しを直しても、新しい商売には届きません
- 見積から入金までを、社長一人か二人で回している会社。 仕事が人から人へ渡る場所が少なく、社長が受け渡しを書き出しても、選ぶ候補が残りません
この2つの会社は、今回は外します。
よくある質問
Q. DXは何から始めればいいですか。
見積から入金までの受け渡しを書き出して、最初に直す1つを選ぶところからです。社長がソフトの資料を取り寄せるのは、その1つが決まったあとで遅くありません。直す場所が先に決まっていれば、社長は資料のうち、その受け渡しに関わるページだけを読めば済みます。
Q. DXと業務改善は、何が違うのですか。
国の定義では、DXは商売の形や組織まで変えることを含みます。今ある仕事の手間やミスを減らすのが業務改善で、この記事の受け渡しの直し方は、業務改善から入る進め方です。違いと、「DXのご提案」を受けたときに確かめることは、DXと業務改善の違いに書きました。
Q. 担当者を決めてソフトも入れたのに、進みません。
決める立場にない担当者の机に、答えの出ていない問いがたまっているのかもしれません。見分け方は中小企業のDXが進まない理由にまとめました。
Q. AIを入れるところから始めてもいいですか。
AIに任せる仕事を先に決めたい場合の選び方は、中小企業のAI導入は何から始める?にまとめています。AIを使う場合も、社長がその仕事を6つの受け渡しのどこにあるかで見ておくと、AIの下書きを次に受け取る人がはっきりします。
Q. 社内に詳しい人がいなくても進められますか。
受け渡しを書き出して1つ選ぶところまでは、社長と事務の方の2人で進められます。ソフトの設定や作り込みが要る段になったら、社長が、社内で担う人がいるかどうかを見て、外の力を借りるかを決めます。
明日やること
社長が紙に6つの受け渡しを縦に書き、事務の方に「先月、同じ数字をもう一度打ったのは、どの受け渡しですか」と尋ねてください。事務の方が挙げた受け渡しが2つ以上あれば、社長は表で下にあるほうの1つに線を引きます。
線を引いた1つで始めてよいか迷うときは、無料のご相談で、社長が線を引いた受け渡しと、その前後の仕事の渡り方をお聞きします。私はほかの受け渡しとも見比べたうえで、最初に直す候補を1つ挙げ、そこから始める理由を口頭でお伝えします。ソフトの選定は、無料のご相談には含めていません。その場で契約をお勧めすることはありません。
初回は30分ほど、ビデオ通話かお電話で。資料の添付は不要です。3営業日以内にメールでご返信します。