中小企業のAI導入は何から?道具より先に、任せる仕事を1つ決める
社長が社員に「これからはAIも使っていこう。試してみて」と声をかけたのに、ひと月たっても、事務の方は一度画面を開いたきり、ということはないでしょうか。理由を聞くと、事務の方は「何を頼めばいいのか分からなくて」と答えます。営業の方は、取引先へのメールの言い回しを整えるのに、もう使い始めているかもしれません。
社長が「うちにはまだ早かったか」と考えたくなる場面です。私は、早すぎたのではなく、最初にAIに任せる仕事を決めていなかっただけだと見ています。
AI導入で最初に決めるのは、任せる仕事1つ
中小企業のAI導入で先に決めるのは、どのAIを入れるかより、最初にAIに任せる仕事1つです。選ぶ条件は、毎週くり返すこと、担当者がAIの下書きを見て直せること、使う前に人が見る段があることの3つです。3つがそろった仕事なら、AIが間違えても、使う前に読み直す人が止められ、担当者は翌週にもう一度試せます。
「中小企業 AI 導入」で検索すると、2026年9月28日の時点では、上位10件のうち4本が導入の手順を書いた記事でした。4本とも、目的や解決したいことをはっきりさせる手順が最初で、そのあとに道具を選ぶ手順が続きます。
社長は、この目的と道具のあいだで、任せる仕事を1つ決めます。目的を「事務の手間を減らすこと」と決めても、明日だれが何をAIに頼むかまでは決まりません。仕事の名前が1つ決まると、頼む人と試す日が決まります。
最初の1つを選ぶ3つの条件
最初の1つは、次の3つの条件がそろう仕事から選びます。候補は、その仕事をいつもしている担当者が挙げ、社長がその中から1つに決めます。
条件を当てる前に、社長は、その仕事で扱う情報を、会社の外のAIに入れても差し支えないかを確かめます。お客さまの名簿や、社員の健康診断の結果を扱う仕事は、3つの条件に合っていても候補から外します。入れた情報がAIの学習に回るかどうかも含めて、どの仕事をどのAIに入れてよいかを分ける表は、生成AIの社内ルールの作り方で作り方を紹介しています。
1. 毎週くり返す仕事
年に一度の仕事でAIを試すと、次に同じ仕事が来るのは1年後です。毎週くり返す仕事なら、担当者は翌週に、頼み方を直してもう一度試せます。1回目の下書きが使えなくても、担当者は試すたびに、頼み方を仕事に合わせていけます。
2. 担当者がAIの下書きを見て直せる仕事
AIに任せるのは、仕上げではなく下書きです。OpenAIも、ヘルプのChatGPT は真実を伝えますか?で、答えを最終的な情報源ではなく初稿として使い、重要な情報は確かめるよう勧めています。いつもその仕事をしている担当者なら、下書きを元のメモや資料と照らして、違うところを見つけられます。
担当者も正しい答えを知らない仕事は、この条件に合いません。初めて扱う制度の条件を調べる、といった仕事です。AIは、もっともらしい間違いを答えることがあり、担当者が答えを知らなければ、その間違いに気づけません。間違いの見つけ方は、AIが嘘をつくのはなぜ?で詳しく書いています。
3. 使う前に、人が見る段がある仕事
社内のお知らせは貼り出す前に、取引先へのメールは送る前に、担当者か社長が読み直せます。AIが間違えても、その段で止められます。
問い合わせにその場で答える仕事や、金額を決めてそのまま相手に伝える仕事は、間違いがそのまま相手に届きます。最初の1つを選ぶ段階では、社長はこうした仕事を後に回します。
3つの条件を当てた仕事の例
架空の会社の仕事を、3つの条件に当ててみます。
| 仕事 | 条件1 毎週 | 条件2 直せる | 条件3 人が見る | 最初の1つに |
|---|---|---|---|---|
| 社内のお知らせを書く | ○ | ○ | ○ | 向く |
| 日程の連絡メールを下書きする | ○ | ○ | ○ | 向く |
| 手書きのメモから日報を清書する | ○ | ○ | ○ | 向く |
| 年に一度の決算の書類をまとめる | × | ○ | ○ | 後に回す |
| 問い合わせにその場で答える | ○ | × | × | 後に回す |
表の○×は一例で、同じ仕事でも、会社によって○×は変わります。
選んだ仕事を、次に回ってきた日から試す手順
社長が1つ決めたら、次にその仕事が回ってきた日は、担当者はいつもどおりAIを使わずに仕上げ、かかった時間を紙に書いておきます。その次の回から、担当者はAIに下書きを頼みます。使うAIは、前の節で確かめた情報の扱いに合わせて、社長が決めます。
AIに頼んだ回は、担当者が紙に2つ書き留めます。下書きのどこを直したかと、AIに頼んでから仕上がるまでにかかった時間です。直したところは、担当者が次に頼むときの頼み方を直す手がかりにします。
ひと月続けたら、社長と担当者で紙を見ます。AIに頼んだ回の時間が、いつもどおりに仕上げた回の時間より短くなっていれば、担当者はその仕事をAIに任せて続けます。長いままなら、社長は担当者が挙げたほかの候補から、別の仕事を選び直します。
文章を書く仕事が毎週はない会社
社員がパソコンで文章を書く仕事が、毎週はない会社があります。現場の作業が中心で、書類は社長が月末にまとめて作る、といった会社です。こうした会社では、3つの条件がそろう仕事が見つからないことがあります。その場合にAIを何に使うかは、今回の記事では取り上げません。
よくある質問
Q. AIを導入するには、何から始めればいいですか。
最初にAIに任せる仕事を1つ決めるところからです。道具の比較や社員向けの研修は、その仕事が決まってからでも間に合います。任せる仕事が決まっていれば、研修で聞くことも、道具に求めることも、その仕事に合わせて絞れます。
Q. 生成AIは、会社の仕事の何に使えますか。
手元のメモや資料をもとに、AIに文章の下書きを作らせる使い方なら、担当者が元のメモと照らして直せます。社内のお知らせ、日程の連絡メール、打ち合わせの議事録(AI議事録の使い方)、作業の手順書(AIで手順書を作る方法)などです。何も渡さずに制度や数字を聞く使い方は、答えを公式の資料で確かめる手間がかかります。
Q. AI導入が失敗する原因は何ですか。
社長が任せる仕事を決めないまま「使ってみて」と頼む形だと、担当者は何をAIに頼めばよいか迷ったままになり、試す回数が増えません。試す回数が増えないと、AIが役に立つ仕事と立たない仕事の見分けもつきません。冒頭の場面は、この形です。
Q. AI導入の費用は、何にかかりますか。
かかるのは、道具の利用料と、社内で試す人の時間です。利用料は製品と契約の種類で変わるので、各社の公式の料金ページで確かめてください。試す人の時間は、ふだんのその仕事の中で使います。
Q. AI導入の相談は、どこにすればいいですか。
道具の使い方の質問なら、製品の公式のヘルプで解けることがあります。どの仕事から任せるかで迷っているなら、仕事の流れを一緒に見る相手が要ります。AIに限らず、ITの相談先の種類ごとの得意・不得意を並べた表は、中小企業のIT相談先がわからないの記事に載せています。SanSaQは、案件の記録や問い合わせの整理など、この事務所の仕事でAIを先に使ったうえで、ご相談を受けています(SanSaQについて)。
明日やること
社長が、事務の担当者に「毎週くり返している仕事のうち、AIの下書きを見れば直せて、使う前にだれかが読み直す仕事はどれか」と聞いてください。担当者が1つ挙げたら、その仕事で扱う情報に、お客さまの名簿や健康の情報が入っていないかを、社長と担当者で確かめます。
3つの条件に当てても最初の1つが決まらないときは、無料のご相談をお使いください。事務の方の毎週の仕事と、その前後の流れを伺い、最初に直す候補を挙げ、その理由も口頭でお伝えします。どのAIの道具を選ぶかは、ご相談の場では決めません。その場で契約をお勧めすることはありません。
初回は30分ほど、ビデオ通話かお電話で。資料の添付は不要です。3営業日以内にメールでご返信します。