DXとは?業務改善との違いは「変える範囲」|提案書で確かめる1行
取引のある販売店から「DXのご提案」という資料を受け取った。中身は「業務効率化」「生産性向上」「ペーパーレス」の見出しと、月々の料金の表。うちのどの仕事がどう変わるのかは、読んでも分からない。
「うちに要るのは、DXなのか、業務改善なのか」と迷ったときに、先に確かめてほしいのは、提案の名前より、提案書の中の1行です。どの仕事の、だれの手間が、どう変わるか。この記事では、DXと業務改善の違いを国の定義で短く整理したうえで、その1行の見つけ方を書きます。
DXと業務改善は、変える範囲が違う
DXと業務改善の違いは、変える範囲です。DXは商売のやり方まで変えること、業務改善は今の仕事の中の手間やミスを減らすことです。
経済産業省は、DXを「データとデジタル技術を活用して」製品やサービス、商売のやり方(ビジネスモデル)を変え、業務や組織、会社の風土まで変えて、「競争上の優位性を確立すること」と定めています(「デジタルガバナンス・コード3.0」、2024年9月改訂)。業務改善という言葉は、この記事では、今の仕事の流れの中にある手間やミスを減らすことを指して使います。
国の資料は、DXを3つの段に分けている
経済産業省の研究会がまとめた「DXレポート2(中間取りまとめ)」(2020年12月)は、DXを3つの段に分けています。資料の言葉を短くすると、次のとおりです。点検の仕事に当てた例は、私が置いたものです。
| 段 | 資料での呼び名 | 資料の説明(要約) | 点検の仕事に当てた例 |
|---|---|---|---|
| 1 | デジタイゼーション | 紙などの記録を、電子のデータにする | 紙の点検票をスキャンして、パソコンに保存する |
| 2 | デジタライゼーション | 一つひとつの仕事の手順を、電子のデータで回す | 点検票をタブレットで書き、そのまま報告書が出る |
| 3 | デジタルトランスフォーメーション | 会社全体の仕事を電子のデータでつなぎ、お客さま起点で事業や商売のやり方を変える | 受付から請求までを一つの記録でつなぎ、点検の回数で請け負う契約を、設備を止めないことを約束する月ごとの契約へ変える |
同じ資料の図では、紙と人手のままの状態を、3つの段の手前の「未着手」としています。「DX」という言葉は、狭く使えば3段目だけを指し、広く使えば1段目から3段目までをまとめて指します。「DXのご提案」と表紙に書いた資料でも、中身が1段目や2段目のことはあります。
1段目や2段目の提案が悪いわけではありません。社長の会社に要るのが2段目なら、社長は2段目の提案を選べば足ります。社長が迷うのは、段の話も、どの仕事の話かも書いていない提案を前にしたときです。業務改善は、3つの段の手前でも、どの段の中でも起こりえます。社長が紙のまま受け渡しの順番を変えても、打ち直しは減ります。
提案書では、どの仕事の、だれの手間が、どう変わるかの1行を確かめる
提案を採るかどうかは、社長が決めます。この確かめ方ができる前提は、提案書が手元にあることと、営業の方に質問できる間柄であることの2つです。
社長は、提案書の中から次の1行を探します。
- 1行が書いていない例: 「業務効率化により、生産性が向上します」
- 1行が書いてある例: 「月末に事務の方が、現場から戻った報告書の数量を請求書へ打ち直している手間が、なくなります」
上の例には、仕事の名前(請求書づくり)も、人(事務の方)も、変わり方(打ち直しがなくなる)もありません。下の例なら、社長は導入のあとに事務の方へ「打ち直しは、なくなったか」と聞けます。直ったかどうかを確かめる問いを、社長は提案を受けた日に手にできます。
提案書のどこにもこの1行がなければ、社長は次に営業の方が来たときに聞きます。「この提案で、うちのどの仕事の、だれの手間が、どう変わりますか」。答えが「全社の業務が効率化します」のままなら、その提案はまだ御社の仕事の名前で書かれていない、と私は見ます。
私も、無料のご相談の終わりにお伝えするのは、最初に直す受け渡しの候補と、その理由です。呼び名より、変わる仕事の名前でお話ししたいからです。
1行が書けても、社長が決めきれない提案がある
1行が書けても、それだけでは社長が決めきれない提案が2つあります。
- 商売のやり方そのものを変える提案(3段目)。 月ごとの契約へ変えるような提案は、どの仕事が変わるかの1行に、社長は書ききれません。国の手引き(2025年3月)が最初の段「意思決定」に置く、5年後・10年後の会社の姿にかかわるからです
- 月々の料金に見合うかを比べる提案。 1行から社長に分かるのは、どの手間が変わるかまでです。その手間が減ることと毎月の料金とを比べる計算は、1行の外にあります
この2つについては、1行を確かめたあとも、社長の判断が残ります。
よくある質問
Q. DXと業務改善の違いは何ですか。
変える範囲が違います。経済産業省の定義では、DXはデータとデジタル技術を使って、商売のやり方や組織まで変えることです。業務改善は、今の仕事の中の手間やミスを減らすことで、紙のままでも進められます。
Q. デジタイゼーションとデジタライゼーションの違いは何ですか。
デジタイゼーションは、紙に書いたものを、パソコンで扱える形に置き換えることです。紙の点検票をスキャンして保存するのが、これにあたります。デジタライゼーションは、一つひとつの仕事の手順そのものを、電子のデータで回すことです。点検票をタブレットで書き、そのまま報告書が出る形が、これにあたります。どちらも経済産業省の「DXレポート2」が使っている言葉です。
Q. 業務改善から始めても、いいのですか。
国の手引き(2025年3月)は、個別の仕事を電子のデータで回すような、身近なところから始めて少しずつ広げる会社が多い、と紹介しています。最初に手を入れる仕事の決め方は、中小企業のDXの進め方の記事で説明しています。提案の見積が思ったより大きくなる理由は、中小企業のIT相談先がわからないに書きました。
明日やること
社長が、手元にあるソフトや機器の提案書を1冊選び、「どの仕事の、だれの手間が、どう変わるか」の1行を探してください。見つからなかったら、社長は次に営業の方が来た日に、その1行を聞きます。
1行を探すうちに、社長自身がどの仕事を変えたいのか決まらないと気づいたら、無料のご相談をお使いください。見積から入金までの仕事がどう渡っているかを順にお聞きし、どこから直すとよさそうかと、その見立ての理由を口頭でお伝えします。どの販売店のどの提案を採るかの判断には、私は立ち入りません。その場で契約をお勧めすることはありません。
初回は30分ほど、ビデオ通話かお電話で。資料の添付は不要です。3営業日以内にメールでご返信します。